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IDOL DISC REVIEW BiSH -『 Brand-new idol SHiT』

 

*以下、文章はnoteに掲載した内容を一部変更して再掲したものです。要するに同時掲載ってワケ。twitter:TinyCityAnimal

Label :SUB TRAX
発売日:2015年5月27日
紹介:BiSを手がけた渡辺淳之介の「BiSをもう一度始める」という宣言のもと結成されたアイドルグループBiSHの最初のアルバム。本作は、メンバー決定から2か月半後という異例のスピード感でリリースされた。


 Brand-new idol SHiTは、ロールシャッハ・テストのような機能を備えている。アルバムを手にした人によって思い浮かべるものがそれぞれ違ってくるのだ。eastern youthNUMBER GIRLPixies、果てはBiSまで。そして、BiSHは、それら全ての”ニセモノ”として、アルバムの中に存在している。彼女たちは、独創的であることを放棄しているのだろうか? 逆である。ニセモノが本物を超えるにはオリジナル以上に独創的でなければならない。ニセモノが本物になる。これは、「楽器を持たないパンクバンド」と名乗る以前の彼女たちのごく初期のコンセプトであり、Brand-new idol SHiTは、そのステートメントである。

 

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 2015年、BiSHは、アイドルやアイドルポップスに興味を持ったロック好きが飛びつきやすいグループの一つだった。インディーズ1作目のアルバムBrand-new idol SHiTは、その性格を如実に表している。ジャンルは、横断的で混乱しており、全体としてはやや統一感に欠けているが、その分音楽的に様々なバックボーンをもった人が手を取りやすい。そして、アルバム全体を通じて、90年代から00年代初頭の邦ロックを通過してきた人や世代を問わず優れた音楽を発見する人にだけ解るよう、目くばせや仕掛けが随所に散りばめられている。

 オープニングナンバーである、「スパーク」は、eastern youthの「夜明けの歌」のメロディをなぞり、THE YELLOW MONKEYの曲名と歌詞の一部がパッチワークのように転用されている。「サラバかな?」のイントロは、「OMOIDE IN MY HEAD」のイントロをカセットテープを切り貼りして無理矢理20秒に縮めたかのようだ。続く「SCHOOL GIRLS, BANG BANG」は、ひしゃげたドラムビートの上にアイドルらしいユニゾンが乗り、曲の後半では演歌調に転調する。名前に反してNUMBER GIRLのどの曲とも似ていない。「TOUMIN SHOJO」の曲名と歌詞は、それに気づいてニヤつく人のために作られたかのようである。アルバムの最後を飾る「Story Brighter」は、スーパーカーを連想させるが、疾走感のある荒いギターサウンドは2000年前後のまた別の邦ロックバンドを思い起こさせる。

 邦ロック以外にもアメリカのオルタナティブ・ロックのパロディも行われている。「カラダイデオロギー」の唸るようなギターリフはPixiesの「Vamos」から借用したものだろう。アルバムは、彼女たちのために作られたSUB TRAXというレーベルから出された。レーベル名は、Nirvanaが最初のスタジオ・アルバムを出したことでも有名なシアトルのインディー・レーベルSUB POPのもじりである。

 こうした安直なもじりやパロディは、アイドルポップスを避けたり見下しがちなロック愛好家の音楽的スノビズムをくすぐった。より捻くれたスノッブや警戒心の強い人は、単に邦ロックやUSオルタナへの憧れだけでなく自意識や計算も入り混じるこのアルバムと彼女たちを穿った見方で捉えたかもしれない。とはいえ、楽曲のクオリティに関しては文句をつけなかっただろう。

 アルバムは、よりラウドでヘビーな曲を好む人たちの需要にも応えている。「Monsters」はメタルよりのラウドロックで、「Bish-星が瞬く夜に-」はメロコア風のアンセムソングでアルバム内で唯一パンクらしい曲である。アルバムの中盤から後半にかけては、ピアノやシンセサイザーの音も聞こえてきて、バンドスタイルに強い拘りを持っているというわけでもなさそうだ。

 全編を通じて、基本的にはバンドサウンドだが、バンドスタイルの枠組みを超えたアレンジやデジタルロックも見られ、メタルやパンクといった激しいロックとアイドルポップスの融合が目指されたものと邦ロックやUSオルタナバンドへの憧れを感じるギターを基調としたロックが混在している。ジャンルが意味をなさないこのアルバムをあえて分類するとしたら、この雑多な13曲をパンクで一括りにするよりかは、オルタナティブという言葉で形容する方が適切だろう。

 こうしたオルタナよりの楽曲の幅広さやセルフタイトルのようなアルバム名は、BiSの最初のアルバムBrand-new idol Societyセルフパロディのようにも思える。アルバムは、BiSのイメージを利用して最初の観客を集めることができるよう、計算のもと、雑多なオルタナ路線に落ち着いたと考えるのが自然な気がするのだ。実際、BiSHの初めてのワンマンライブは、「THiS IS FOR BiS」という題名が示す通り、その会場にせよ、オープニングで同じ曲を連続で披露したことにせよ、BiSの最初のワンマンライブの意図的な模倣(オマージュ)だった。

 逆説的ではあるが、BiSの模倣をすることによって、BiSを追いかけてきた研究員(=BiSファンの名称)たちの目には、BiSHはBiSとは異なるものに映ったかもしれない。「BiSをもう一度始める」という宣言のもとに集まった彼女たちは、BiSの再結成した姿ではなく、BiSHという新しいグループだった。DIY的な泥臭い地道な作業に手を煩わせることもなく、ライブを開くとなると最初から100人近く集まった。歌やダンスといったパフォーマンスも初期のBiSよりも達者で、BiSと同じことをすると、アルファベット一文字以上に違いがあった。初期のBiSHには、納得はしないが感動的なシーンで幕を閉じた映画の続編の新しい主人公のような”ニセモノ感”があったのではないだろうか?

 この”ニセモノ感”は、Brand-new idol SHiTの中では、雑多な13曲に一貫性を与える背骨のような自意識として存在しているように感じられる。言い換えるならば、自分たちがどう見られたいのかという長期的な視座のもと、BiSHは、あえて”ニセモノ”としてスタートしたのではないかということだ。デビューアルバムの一曲目にわざわざeastern youthの”パクり”を持ってきたのも、彼女たちのアティチュードを示すのに適していたからであり、彼女たちなりの方法で、多くのデビューアルバムの一曲目と同様に、何か基準となるようなものを示そうとしているのだ。

 「スパーク」には、また別のエピソードがある。アルバムに先立って公開された「スパーク」の音源は、当初プロデューサーの渡辺淳之介のボーカル・ヴァージョンだった。そして、その後にメンバーが歌ったものが「スパーク(本物)」として公開された。eastern youth(もちろんTHE YELLOW MONKEYも)とその”ニセモノ”であるBiSHに、BiSHの”ニセモノ”という第三の項が追加されることで、BiSHはまるで”本物のニセモノ”になったかのようである。このようなプロモーションのギミックの他にも、グループ誕生からBiSHを追ったOTOTOYでの連載に、「二番煎じは本物を超えられるのか?!」というサブタイトルがつけられたことも示唆的である。こうした初期のBiSHのコンセプトもアルバムの本質と照らし合わせるとより実感できる。”ニセモノ”が本物になっていくストーリーを予感させるような希望に満ちたサウンドである。

 作家性やジャンルや時にバンドスタイルにさえ強い拘りのない雑多な楽曲は、アイドル・シーンの何者も拒まないおおらかさとカオスを示している。その意味で、実にアイドル的である。アイドル・シーンでは、時に、様々なものが交差して、互いに寄り添うことがないと思われたもの同士さえ肩を並べ合うことがある。実際、BiSHのライブに集ったロックファンは、後に、ロックのジャンルやバンド間の様々な派閥争いを超えて、メタルもメロコアもデジタルロックもオルタナも等しく”パンク”だと考えるアイドルのもとに統一されたのだった。

                                                                                                                                    by TAC

 

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Brand-new idol SHiT

Brand-new idol SHiT

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